2012 年 26 巻 6 号 p. 602-608
症例は38歳,女性.突然の左胸背部痛を自覚し当院を受診,精査の末前縦隔奇形腫の胸腔内穿孔と診断し,後日腫瘍摘出術を行った.病理学的検査所見では大半は膵組織を始めとした多彩な組織像を伴う奇形腫の所見であったが,神経組織の一部に未熟成分を伴う未熟奇形腫の診断となった.術前高値を示した血中CA19-9値は術後正常化した.腫瘍マーカー上昇の機序として,CA19-9産生能を有する膵組織から分泌された膵酵素が腫瘍融解を来たし,そのため腫瘍が胸腔内に穿孔し,胸腔内に漏出した腫瘍の内容液が胸膜経由で吸収され血中腫瘍マーカー上昇に至ったと考えられた.