日本救急医学会雑誌
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症例報告
若年女性に発症したAcinetobacter baumanniiによる劇症市中肺炎の1例
樫山 鉄矢金子 仁紀平 裕美後藤 文男九鬼 隆家櫻田 政子
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2012 年 23 巻 6 号 p. 247-252

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抄録

アシネトバクターは,院内感染の代表的な病原体として知られている。市中感染は稀だが,主として環太平洋の亜熱帯地域から,Acinetobacter baumanniiによる重症の市中肺炎が報告されてきた。報告例のほとんどが急速に進行する劇症肺炎で死亡率も高い。温帯域からの報告は非常に稀であり,本邦報告例は数例に過ぎない。本報告は,多量の飲酒歴があり,膵炎と肝障害の既往を有する23歳女性症例である。咳,発熱,胸腹部痛,呼吸困難を主訴として他院を受診後,高度呼吸不全とショックの診断にて当救命救急センターに搬送された。胸部X線写真では左の大葉性肺炎像を呈していた。吸引痰のグラム染色では,グラム陰性球菌が認められた。人工呼吸管理,大量補液を開始し,メロペネム,バンコマイシン,クリンダマイシン,多量のノルアドレナリン,バゾプレシンの投与を行い,更に経皮心肺補助等を施行したが,状態は急速に増悪し,入院後約25時間の経過で死亡した。気管吸引痰および血液より,Acinetobacter baumanniiが分離培養され,同菌による劇症の市中肺炎と診断した。本例は,乳幼児を除き,現時点で最も若年の症例報告と思われる。急速に亜熱帯化する本邦にあって,今後本菌による市中肺炎が増加する可能性は少なくない。夏期発症のショックを伴う重症市中肺炎で,とくにグラム染色でグラム陰性球桿菌が認められた場合には,本菌による市中肺炎の可能性を考え,より早期に集学的治療を開始することが必要と考えられた。

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© 2012 日本救急医学会
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