日本公衆衛生雑誌
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研究ノート
わが国の肥満傾向児と痩身傾向児の出現率に対する年齢—時代—コホート効果 (1977–2006年)と2007–2016年の出現率の推計
小田切 陽一内田 博之小山 勝弘
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2013 年 60 巻 6 号 p. 356-369

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抄録

目的 児童•生徒の肥満や痩身は学校保健上の重要な課題である。肥満,痩身傾向児の出現率の時代推移は,時代の影響に加えて,年齢の影響,さらには,生まれ世代に特有のコホートの影響を含んでいる。これらの影響を分離して,年齢によるリスク,時代のリスク,さらには世代のリスクを評価することは,肥満や痩身に対する児童•生徒の保健指導を進める上で重要である。本研究の目的はベイズ型 age-period-cohort(APC)分析を使用し,1977∼2006年の間の肥満傾向,痩身傾向児の出現率の推移を分析し,年齢,時代,コホートの影響を評価した上で,2007∼2016年までの肥満傾向,痩身傾向児の出現率の推計を行うことである。
方法 1977∼2006年の学校保健統計調査から,6∼14歳の児童•生徒の肥満傾向児,痩身傾向児の出現率のデータを得て,標準コホート表を作成した。これにベイズ型 APC 分析を適用して,年齢,時代およびコホート効果を推定した。また,2007∼2016年までの肥満傾向,痩身傾向児の出現率の推計を行った。
結果 肥満傾向児の出現率に対する年齢効果は男子では 6∼11歳,女子では 6∼12歳で増大し,以降で低減した。時代効果は男女に共通して,1990年代の後半まで増大し,以降低減した。コホート効果は男子では1963∼1969年生まれまで増大,その後1981年生まれまで低減し,それ以降のコホートでは一貫して増大した。女子では,1964∼1975年生まれまで低減した後,1990年生まれまで増大,以降は横ばいから緩やかな増大を示した。痩身傾向児の出現率に対する年齢効果は,男子では 7∼10歳,女子では 7∼12歳まで増大し,以降は横ばいとなった。時代効果は,男女ともに2000年頃まで増大し,以降わずかに低減した。コホート効果は男子では1985∼1994年生まれまで増大し,1994年生まれ以降で低減した。一方,女子では,1976∼1993年生まれまで増大,1993年生まれ以降横ばいから低減した。時代効果とコホート効果のトレンドが持続すると仮定した場合,2007∼2016年の間の肥満傾向児,痩身傾向児の出現率は横ばいで推移すると推計された。
結論 本研究の結果は,肥満傾向児,痩身傾向児の出現率の年次推移に対して,3 要因(年齢,時代,コホート)のうち年齢が最も強く影響した要因であったが,時代とコホートの影響も受けて推移してきたことが明らかとなった。また,肥満傾向児,痩身傾向児の出現率の推計結果は,2007∼2016年の間は横ばいで推移することを示しており,年齢,時代,コホートのリスクに対応した保健指導が肥満傾向,痩身傾向児の低減にむけて重要であると考えられた。

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© 2013 日本公衆衛生学会
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