2012 年 45 巻 5 号 p. 421-426
症例は69歳,男性.糖尿病性腎症による末期腎不全に対し3年前維持血液透析を導入された.発熱,左鼠径部痛を主訴に受診し,左腹直筋から恥骨結合腹側,右外閉鎖筋にわたる広範囲な膿瘍を認め入院となった.抗菌薬の投与に加え,感染巣の切開排膿,デブリードマンを7か月の間に5回施行したが創部の治癒を得られなかった.活動性の高い感染の存在は否定されたにもかかわらず,創部の治癒傾向を認めなかったため,陰圧閉鎖療法(NPWT)を開始した.NPWT開始後1か月で創部の収縮と良好な肉芽形成を認め,同療法を終了し創部を縫縮し退院となった.NPWTは滲出液の排除,浮腫軽減,局所血流の増加など多様な効果から創傷環境を改善し治癒を促進させる.糖尿病合併透析患者は,免疫能の低下や動脈硬化に伴う血流不全といった創傷治癒の阻害因子を多数有するため創傷が難治性で重症化し易く,感染症を合併すればときに致死的となる.このような症例に対し創傷環境を改善させるNPWTは有効な治療法であると考えられた.