山階鳥類学雑誌
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特集論文:オーストラリア熱帯モンスーン地域における鳥類の生活史と社会生活
オーストラリア熱帯モンスーン性鳥類の生活史の特徴
江口 和洋
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2010 年 42 巻 1 号 p. 1-18

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抄録

オーストラリアモンスーン熱帯を中心に,熱帯における鳥類の生活史の進化に関する最近の研究を概説した。熱帯においては,1) 一腹卵数が小さく,2) 成鳥の生存率が高いことが,多くの資料を用いて,系統と生息場所の要因を除去した比較研究によって検証されている。一方,従来,熱帯特有の傾向があると考えられていた,捕食圧,抱卵日数,育雛日数,一繁殖期間中の繁殖回数は温帯との違いは見られず,給餌回数,餌サイズ,総給餌量は熱帯のデータが不十分である。オーストラリアモンスーン地域では,年間の気温変化は小さく,6ヶ月間の顕著な雨季と乾季の交代が見られる。昆虫,蜜などの餌資源は極端に枯渇する時期がなく,1年を通じての変化は北半球温帯に比べて小さい。鳥類の繁殖はどの月にも見られるが,餌資源の変化に応じて,種毎に繁殖期間が大きく異なり,多様なパターンを示す。生活史の特徴は他の地域の熱帯性鳥類と同様である。特徴的であるのは,協同繁殖種の多さと野火への適応である。季節変動の小さい餌資源の利用は,成鳥の高い生存と個体群の転換率の低下,若鳥の繁殖開始の遅延,出自なわばりへの長期間の残留を促進し,これらは協同繁殖の素因となり,オーストラリア産鳥類に多くの協同繁殖種を出現させたと考えられる。頻繁な野火は鳥類の生息,繁殖の障害となる一方,野火により出現した新しい餌資源や採餌場所を利用して繁殖成功を高めたり,野火の影響を軽減する行動習性を持つ種が出現している。

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© 2010 公益財団法人 山階鳥類研究所
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