産業衛生学雑誌
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原著
わが国の産業医の平成14年から20年までの就退職数とその特徴
一瀬 豊日中村 早人蜂須賀 研二
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2012 年 54 巻 5 号 p. 174-183

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抄録

近年,わが国における産業医数は他の診療科目等に比べ増加が著しい.これに対して,産業医の未充足の求人は依然として増加している.これは,産業医への流入数と流出数がともに多いことを示唆している.流出入・勤続動向の把握は産業医の需給および産業保健の質を確保するためには重要な情報であるが,動態情報は不明であった. 方法: 医師・歯科医師・薬剤師調査の公表データを基に封鎖人口モデルを作成し,産業医の流出入数や異動の特徴を推定した.検証に用いる実数は,平成22年12月に公表された平成18–20年度の厚生労働省医師調査の医籍番号コホートデータである参考表の数値を用いた. 結果: 実数データである産業医の流入351人,流出240人に最も近似したのは,市区町村封鎖人口モデルであり,産業医流入は282–348人/2年,流出は202–222人/2年であった.また,このモデルでは少なくとも55–65%の新規流入者が2年以内に流出した. 結論: 常勤産業医で,2年以上の継続率は救急科およびリハビリテーション科を主たる診療科とするものに近い低水準にある.また,産業医科大学卒の産業医を差分すると,最小でも新規産業医流入者のおよそ8割が2年以内に流出していると推定される.これは賃金構造基本統計調査で明らかとなっている医師の平均勤続年数5.6年と比しても著しく短い.勤続年数は資格更新より著しく短いため,更新に伴う問題とは考え難い.また報酬も勤務医の同年齢年俸と比して劣るものではないため主因とは考え難い.今後,産業保健の質および量の確保のためには,流出入や勤続年数等の基礎的調査とともに有効な対策となる生涯教育のあり方や諸制度の検討が必要と考えられる.

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