ウイルス
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特集2:RNAサイレンシング
転移因子,RNAサイレンシング,ゲノム進化
塩見 春彦
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2008 年 58 巻 1 号 p. 55-60

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抄録

 Watson & CrickによるDNA二重らせん構造の解明からちょうど50年を経た2003年にヒトゲノム配列解読の完了宣言がなされたが,このプロジェクトの驚くべき成果の一つは,私達のゲノムの40%以上が転移因子(transposable elements; TE)とその‘残骸’で占められているということであった.他の哺乳類のゲノムでも少なくとも30%以上がTEで占められており,また,ショウジョウバエのゲノムにおいても約27%がTEから構成されている.TEとその残骸は,最近まで,ジャンクや利己的またはパラサイトDNAと見なされ,宿主にとって無駄で役に立たないもの,さらにはむしろ,ゲノム中を転移することで宿主ゲノムに傷をつける可能性があることから,宿主に害を与えるものと捉えられてきた.しかし,最近のゲノム解析から,TEこそがゲノム進化の主役であり,宿主とTEとの間の軍備拡張競争(‘arms race’)の結果がゲノムを形づくって来たことが明らかになりつつある.この軍拡競争の宿主側の重要な‘arms’の一つが「RNAサイレンシング」である.TEとRNAサイレンシング機構の間の‘軍拡競争’が複雑な遺伝子発現制御を可能にするゲノムの進化をもたらしたという新しいコンセプトが生まれてきた.

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© 2008 日本ウイルス学会
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