2012 年 27 巻 4 号 p. 273-277
当院では2008年より,院内における肺結核の早期発見と対応を目的とした結核対策チェックリストを独自に作成し運用を開始した.チェックリストは,全ての新規入院患者と外来で長時間の滞在を要する患者を対象に,既往歴・家族歴と胸部X線所見,呼吸器症状を問う内容とした.チェックリストで肺結核が疑われる患者に対し喀痰検査を行い,早期診断を試みた.
チェックリスト記載率は運用開始時77.4%,12ヶ月後96.8%と経時的に上昇.接触者健診実施事例は,チェックリスト運用前12ヶ月では6例だったが運用後12ヶ月では0例と減少.しかし,その後の12ヶ月では6例と再増加した.再増加6例は全例チェックリストが使用されており,内5例は入院時に喀痰抗酸菌検査を実施,結果は陰性であった.そのため入院継続となったが経過中に結核菌の排菌を認めた.これらは定型的な肺結核とは異なる症状・経過を呈する事例であった.
チェックリスト記載率の上昇は,感染制御チームによる結核対策の啓蒙活動や全診療科の記載率調査結果の共有・可視化によるものと考えられた.また関連部署のチェックリスト運用推進の努力により,職員全体の結核に対する認識の向上にも寄与した.一方で早期発見困難事例の存在も顕在化したが,チェックリストの使用により,まずは肺結核を疑う目を持ち対応することが可能となり,定型的な肺結核事例による感染拡大防止の点において有用であると考えられた.